境界に立つ者だけがその境界から自由になれる。

ヒックとドラゴン
ディーン・デュボア、クリス・サンダース監督/2010/米/原題:How to Train Your Dragon

ヒックとドラゴン スペシャル・エディション [DVD]

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ミラノに行った時、電車の出発まで時間が余っていたので映画館に行った。
外国で映画を見るというのもなかなか貴重な体験だ。


言葉の壁があるので、子供向けのアニメにした。
ドリームワークスの「How to Train Your Dragon」。
日本では「ヒックとドラゴン」の邦題で公開されているらしい。
ここ、イタリアでは「Dragon Trainer」という題名であった。
僕にとっては初めての3Dムービーであった。


映画館はいくつもスクリーンがあるシネマコンプレックスだった。
しかしそれなりに歴史があるようで、緞帳など荘重な雰囲気である。
システムはかなりいい加減で、一度チケットを買って入ってしまえば、後はノーチェック。
同じ映画や、他の映画を、いくらでも見放題だった。
日本もこのぐらい大らかだったらいいのに。


イタリア語はほとんど理解出来なかったが、ストーリーは完全に把握できた。
人間にとって害悪をもたらすだけの存在だったドラゴンであったが、
そのドラゴンを飼い慣らすことを覚えた主人公が、
人間とドラゴンの間に立って、両者の仲立ちをするのだ。
いわゆるシャーマンの映画であると言えるだろう。


そうだ、これも境界だ。境界に立つ者だけがその境界から自由になれるのだ。
境界の片側にいる者にとっては、境界を自由に行き来するシャーマンは特別な存在となる。
ある時は畏れ、尊敬し、ある時は迫害する。
いじめのカタルシスと全く同じ構造を持っている。
そう言う意味では神話の時代から語られる多くの物語体系を全く逸していない典型的な話だと言える。


境界に立つ者に憧れ、畏れ、迫害し、愛する。
自分も境界に立つ者になりたいと心から希求しながら、その日が来ることを怖れている。


その夜、僕はミラノのセントラル駅から寝台特急に乗り、いくつかの国境を越えた。
重たい夜が境界を彩り、ごとんごとんと揺れながら、眠りに落ちた。