愛が哀しいんじゃない。それを表現する方法が無いのが哀しいんだ。
■マグノリア
ポール・トーマス・アンダーソン監督/1999/米/原題:Magnolia
- 出版社/メーカー: 日本ヘラルド映画(PCH)
- 発売日: 2004/01/21
- メディア: DVD
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60年代から続くテレビ番組「子供は何を知ってるの?」は、
今まで数々の天才少年を世に輩出してきたクイズ・ショーだ。
ドニーは、その輝ける初代チャンピオンであった。
その卓抜した知識と明晰な頭脳で、ドニーは「天才少年」の名を欲しいままにした。
だが、「神童も二十越えればただの人」とはよく言ったもので、彼も平凡な大人になった。
今はしがない電気屋の店員だ。
ドニーはゲイだ。
自分が通う飲み屋の、美しいバーテンダーの青年、ブラッドに恋をしている。
だが彼は、今の自分には自信が無かった。
「天才少年」と呼ばれて、全米から注目されたのも遠い過去の話。
働いている電気店でも、業績を伸ばすことができず、解雇の宣告を受けてしまった。
そして、それ以上に彼を苦しめたのは、ドニー自身の容姿であった。
おれは醜い―――彼は自らそう思い込んでいた。
彼はブラッドの愛を得るため、歯の矯正手術に5000ドルを注ぎ込む。
金に困ったドニーは、職場の金庫から盗みを働くのだった。
ドニーはその夜もバーのカウンターに居た。
酒に酔った勢いで、ドニーはついにその胸の内をブラッドに打ち明ける。
気分が悪い。うつ病なのか、落ち込みか。気分が・・・恋をして気分が悪い。
―――その2つを混合するのか?
その通り、やっと正しいことを言った!おれはその2つを混合する。
君を愛してる。だから気分が悪い。
明日歯の矯正手術を受ける。その後で話そう。歯を治す。君を愛しているよ、ブラッド。
愛してくれりゃ、おれは君に尽くす。おれに愛を!
愛の鼓動は、bpm200を越える。
やがて沸騰して逆流し、体外に溢れ出す。
だが、それには受け手が居ない。
身体中からどす黒い液体が流れてゆくのを、ただただ見ているだけだ。
だが流れ出す愛を、止血しようとは思わない。
愛のために死ねるなら本望だ。
それなのに、どうして涙が溢れるんだろう。
愛で満たされていたはずのこの胸も、いつの間にか空っぽになっていて、
そこに哀しみが入り込んでくる。
そして「信じられないようなとんでもないこと」が起こった後で、ドニーもとうとう気付く。
溢れ出す涙を拭きもせずに独白する。
おれはバカだった。歯を矯正するなどと!
それで―――彼に愛されると、バカなことを考えた。
何のために?それを分かりもせず・・・。
どこに捌け口が?愛があるのに、その捌け口が見付からないんだ。
この胸には、確かに愛がある。
人生の歓喜を求めて、熱く脈打っている。
―――だが僕には、それをどう表現したらいいのか、分からないことがよくある。
愛を伝えることができない―――僕はその無力感をよく知っている。
それにあまりに親しんだために、その無力感をこそ、愛だと錯覚したことすらある。
愛が哀しいんじゃない。それを表現する方法が無いのが哀しいんだ。
愛が現れるとき、言葉はあまりにも無力で、身体は臆病に縮こまっている。
生まれたばかりの幼い愛は、拒絶に堪えられずに萎んでしまう。
僕はそうして、いくつもの愛の死に立ち会ってきた。
君だよ、今この文章を読んでる君に言ってる。そう、君だ。
僕は君を心から愛してる。
どうか拒まないでほしい。誤解しないでほしい。逃げないでほしい。
僕の愛を受け取ってくれ。
もう一度言う。
僕の一番哀しいことは、この胸の愛が伝わらないことなんだ。