アメリカで最後に残された自由な翼。

バニシング・ポイント
リチャード・C・サラフィアン監督/1971/米国/原題:Vanishing Point

バニシング・ポイント [DVD]

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1970年型白のダッチ・チャレンジャーは、
砂漠地帯の砂を巻き上げながら猛スピードで西へと向かっている。
ハンドルを握るのは元レーサーの運送屋コワルスキー。
カーラジオからはローカル局KOWのDJスーパーソウルの魂の叫びが聴こえる。


速度計は時速250キロを指している。
コワルスキーを追う交通警察の警官達は首を傾げる。
ヤツは一体何をやったんだ?なぜあんなに急ぐ?
さぁな、人を殺したか、車を盗んだか、あるいはその両方だ。


パトカーの執拗な追跡を振り切り、ダッチ・チャレンジャーはネバダ州に入る。
ユタ州警から犯人追跡を託された担当者は、
「暴走と、停止命令無視だけでは、ネバダでは微罪にしか問えない」と繰り返す。


ダッチ・チャレンジャーが猛スピードでひた走るのには、さしたる理由が見当たらなかった。
納車の期限にはまだまだ余裕がある。目指すゴールに誰かが待っている訳でも無い。


それでもコワルスキーは寝る間も惜しんで走り続ける。
交通警察の停止命令を無視し、検問を突破し、追いすがるパトカーを華麗なハンドル捌きで振り切る。


DJスーパーソウルはラジオ放送で叫ぶ。
「走れ、コワルスキー!お前はアメリカで最後に残された自由な翼だ!
 青く醜いパトカーなんかに捕まるな!」
新聞紙上には警察を手玉に取った反逆者の手腕を讃える見出しが踊る。
かくてニヒルなアンチ・ヒーロー、コワルスキーは民衆の圧倒的な支持を得て時代の寵児となる。


砂漠で暮らすスネークハンターには道を聞き、
新興宗教のコミューンにはガソリンを分けてもらい、
ヒッチハイクをするゲイカップルは乗せてやり、
二人きりで暮らすヒッピーのカップルからは覚醒剤とタバコを受け取る。


そして栄光の反逆児はついに、デンバーから2000キロ離れたサン・フランシスコに辿り着く。
行く手を塞ぐ2台の巨大なブルドーザーでさえも、人々の自由を求める想いまでは止められないのだ。