虚無に落ちた後に辿り着く場所。

インセプション
クリストファー・ノーラン監督/2010/米・英/原題:Inception

ドム・コムは、他人の夢に侵入することで、
アイディアを盗み出したり、植えつけたり(インセプション)する
特殊な企業スパイチームのリーダーである。


サイトーが彼らに依頼した仕事の目的は、企業乗っ取りだった。
つまりは経済的な理由であのミッションを計画した訳だ。
だがミッションの途中で虚無に落ちてしまい、何十年、何百年という気の遠くなるような時間を
孤独のままに過ごすことになる。
最後には現実世界に戻ってきたが、果たしてサイトーはミッションの成功を喜んだろうか?


ミッションはきっと、インセプションの対象であったロバートよりも、
仕掛けた側であったはずのコブやサイトーの方に大きな影響を及ぼした筈だ。
金、名誉、権力……そんな世俗的な価値を超越した場所まで、サイトーは辿り着いたのではないか。


果たしてアイディアを植え付けられたのはロバートだったろうか?それともサイトー?
いや、ひょっとしたら映画を観ていた僕かもしれない。
映画を観ながら幾重にも重なる階層構造を楽しんでいた筈が、
「映画を観ている自分自身」さえもが、ひとつのレイヤーに取り込まれているのに気付く。
この映画は、誰も傍観することを許さない強い力を持っている。
それは快感と恐怖の両方を僕らに与える。


うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」や、「パプリカ」を思い出した。
時間を延長するのではなく、意識を際限なく分解していくことで永遠を手にするって設定では、
世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」も思い起こされる。


愛する人が永遠にそこに居て、自分が好きなようにデザインできる世界
―――そこに居ても、やっぱり現実世界に帰りたいと思うだろうか?
あるいは、ある日突然「この世界は夢だ」と告げられたとしたら?
それでも現実世界に戻らなければならないと思うだろうか?