異性しか愛したことのないゲイ・セクシュアル。

■アタック・ナンバー・ハーフ
ヨンユット・トンコントーン監督/2000/タイ/原題:Satree-Lex、英:The Iron Ladies

一人を除く全員がゲイのチームが、バレーボールの全国大会で優勝する、という実話を元にしたタイ映画。
監督の名前が面白い。とんとことーんっ(←ちょっと違う)。
演技もバレーもひどい下手クソだったが、彼らの持つ哀しみと、それを無効化する底抜けの明るさで、
僕はいつしか映画に引き込まれていた。


本当に明るい気分になるのは、ジュンの父親の登場シーンだ。
自分の息子がゲイになって、女装や化粧をしていたら、
「どこで育て方を間違えたんだろう?」「治療しなければ」「一体どんな女だったら愛せるんだろう?」
「我が子が非行に走った」などと、見当違いのことばかり考えてしまう父親が殆どだろう。


しかしジュンの父親は全くそんな風には考えない。
「母さんの若い時そっくりで綺麗だ!」とか、「わしにも(カツラや、女物の服を)貸してくれ!」とか、
あくまでもご機嫌に笑い飛ばしている。サイコーの父親だ。
もし自分に子供が出来て、その子が同性愛者であることを自分にカムアウトしたとしたら、
果たして僕はこんな風に明るく笑うことが出来るだろうか?



僕が今まで好きになった人はことごとく女性であった。
しかし、それなら僕はヘテロ・セクシュアル(異性愛者/ストレート)なのだろうか?
僕が彼女たちを、「女性だったから」好きになった訳ではない。
好きになった人が、たまたま女性だった、というだけだ。
次に好きになる人が男性でないという根拠はどこにも無い。


では僕はバイ・セクシュアルか?何だか、それも違う気がする。
異性しか愛したことのないゲイ・セクシュアル―――ひょっとしたらそんな感じかもしれない。



ところで「異性愛者への12の質問」というのをご存じだろうか?

1.あなたの異性愛の原因はなんだと思いますか?
2.自分が異性愛なのだと初めて判断したのはいつですか?どのようにですか?
3.異性愛は、あなたの発達の一段階ではないですか?
4.異性愛なのは、同性を恐れているからではないですか?
5.一度も同性とセックスをしたことがないなら、なぜ、異性とのセックスの方がよいと決められるのですか?あなたは単に、よい同性愛の経験がないだけなのではないですか?
6.誰かに異性愛者であることを告白したことがありますか?その時の相手の反応はどうでしたか?
7.異性愛は、他人にかかわらない限り、不愉快なものではありません。それなのに、なぜ多くの異性愛者は、他人をも異性愛に引き込もうと誘惑しようとするのでしょうか?
8.子供に対する性的犯罪者の多くが異性愛者です。あなたは自分の子供を異性愛者(特に教師)と接触させることを安全だと思いますか?
9.異性愛者はなぜあんなにあからさまで、いつでも彼らの性的志向を見せびらかすのでしょうか?なぜ彼らは普通に生活することができず、公衆の面前でキスしたり、結婚指輪をはめるなどして、異性愛者であることを見せびらかすのでしょうか?
10.男と女というのは肉体的にも精神的にも明らかに異なっているのに、あなたはそのような相手と本当に満足いく関係が結べますか?
11.異性愛の婚姻は、完全な社会のサポートが受けられるにもかかわらず、今日では、一年間に結婚する夫婦の半分がやがて離婚するといわれています。なぜ異性愛の関係というのは、こんなにうまくいかないのでしょうか。
12.このように、異性愛が直面している問題を考えるにつき、あなたは自分の子供に異性愛になってほしいと思いますか?セラピーで彼らを変えるべきだとは思いませんか?

奇妙な質問だと思うだろう。
これは同性愛者が毎日のようにされる無神経な質問を、そのまま裏返しただけなのだ。
あなたはゲイの人にこんな質問を投げかけたことは無いか?


「なんでゲイになったの?」
「いつからゲイなの?」
「将来女の子を好きになるんじゃないの?」
「女性が怖いからじゃないの?」
「女性と付き合ったことが無いからじゃないの?」
「女性とセックスしたことが無いのに、なんで男の方がいいって決めつけるの?」


これらの質問が、どれだけ相手を傷付け、すり減らし、うんざりさせているのか、
質問者は理解していない。
自らが多数派にいるという特権を利用して、
自分と違う他者を排除しようとする傲慢さが見てとれる。



僕がこの映画に引き込まれてしまうのは、
自分を含めたヘテロの無神経さに、時々辟易してしまうからかもしれない。
この映画が持つ馬鹿馬鹿しさと哀しさの正体は、
そのままゲイ・レズビアンの馬鹿馬鹿しさと哀しさなのだ。