眠りや死の中で鳴り響くシンバルのサスティン。

ウィリアム バロウズ、アレン ギンズバーグ著、山形 浩生訳「麻薬書簡 再現版」1963

麻薬書簡 再現版 (河出文庫)

麻薬書簡 再現版 (河出文庫)

ギンズバーグバロウズは、幻のドラッグ、ヤーヘ(アヤフアスカ)を求めて未開の地である南米を旅する。

アレンギンズバーグの描くヤーヘ体験記は、タケシが酒に酔った時にいつも話す宇宙の神秘の話とよく似ている。
タケシとギンズバーグが似ているのか。
ヤーヘとアルコールが似ているのか。

ヤーヘはアルカロイド系の神経毒の一種で、中枢を麻痺させ、幻覚効果がある。
麻痺による陶酔で、万能感や、宇宙との一体感を感じ、世界に自分を無防備に晒す。
偉大なる者の声がはっきりと聞こえるようになる、とギンズバーグは書いている。


彼らが幻のドラッグを求めて旅したのと同じように、幻の音楽を求めて巡礼の旅に出ても面白い。
行き先は?アフリカ?インド?チベット
だが当時と違い、それらは既に未開の地ではなくなってしまった。
現代において「秘境」と呼べるのは、北朝鮮くらいではないか?
ニューヨークやロンドンに巡礼というのもおかしいか。
リバプールはどうだ。ビートルズの出生地は今、どうなってるだろうか。

音楽を聴いた時に感じる恍惚も千差万別。
アッパー系、ダウナー系、サイケデリック系・・・何でもござれだ。


P164より抜粋。

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プカルパの警察はアヤフアスカ飲みや呪医を逮捕しはじめている―――現地役人からの圧力だ―――
ビールの神秘をまったく体験していない医師。
唯物的な意識が超越的体験の規制&逮捕によって自分自身の解体を防ごうとしているのだ。
いつの日かひょっとすると地球は個別意識の幻想に支配されてしまい、
官僚たちが聖なるものとのあらゆる交信経路の制御を握るのに勝利して
交通を制限するようになるかもしれない。
だが眠りと死は偉大な存在の夢を避けることはできず、
幻想の官僚たちの勝利はかれらの別の意識世界の幻想でしかない。
引き起こされる苦しみは一時的なものでしかなく、
魂が自分自身に戻ってくる最後の審判においては何のちがいももたらさず、
大いなる内宇宙が常に同じ人物の中に存在して時間の中の多忙体のはかない虚栄にもかかわらず
永遠なのだということに気がつかされる。

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ヤーヘを罰するということは、単に人々を罰するということではなく、ある世界観を完全に否定するということだ。
だがその世界観は、法律なんかで縛ることは出来ない。
それは法なんかよりずっと歴史が長く、懐が深く、人間存在の根幹に根差しているからだ。

ここで僕の想像はまた、「音楽の禁じられた世界」に飛ぶ。
いくら当局が音楽を取り締まり、完全に封じ込めることに成功したとしても、それは、ある限定された一局面での勝利に過ぎない。
僕らの眠りや死の中で鳴り響くシンバルのサスティンは、誰にも止めることが出来ないからだ。
いくらこの世界で僕らの手足を縛っても、内宇宙での僕らは完全に自由なのだ。