神がセットした二つの目覚まし時計。

鏡リュウジ「占いはなぜ当たるのですか」1999

占いはなぜ当たるのですか (講談社文庫)

占いはなぜ当たるのですか (講談社文庫)

1979年11月5日 0時30分、埼玉県で生まれた僕のホロスコープは以下のようになっている。

太陽が蠍座の11°37'にあるので、僕の星座はサソリという訳だ。
その他の惑星・衛星は以下にある。


月 牡牛座 17°02'
水星 射手座 04°15'
金星 射手座 00°12'
火星 獅子座 22°41'
木星 乙女座 06°15'
土星 乙女座 23°39'
天王星 蠍座 20°42'
海王星 射手座 18°51'
冥王星 天秤座 20°01'


アセンダント(東の地平)が乙女座になっている僕は、占星術によると、
「細面で若々しい顔立ち、発達した額、きめの細かい肌」という容貌を持っているらしい。


戦いを示す火星が、獅子座の第十二ハウスに入っている。
これは、秘密や無意識の領域において、創造的に闘うことを意味している。


試練を意味する土星が、乙女座の第一ハウスに入っている。
世間に対して批判的であることを自らの試練と捕らえているようだ。


死を指す冥王星は、天秤座の第二ハウスにある。
天秤座は調和的であること、第二ハウスは所有や金銭を示す。
僕の死の際には、金の問題は解決しているということかもしれない。めでたい。


夢想と無意識を示す海王星が、射手座の第四ハウスに入っている。
家庭において、自分自身の夢想について語るということが示されている。
まさに今、その作業をしている。



現代科学の妄信者は、上のような占いの結果を「根拠が無い」といって顔を顰める。
しかし、それでも占いは当たるのだ。


僕自身は、雑誌やテレビでやっている星占いを熱心にチェックするような、所謂「占い好き」ではない。
しかし、当たらないから興味が無いのではない。当たるから見たくないのだ。


占星術錬金術をよく知りもせずに、「大昔に信じられていた迷信」と断ずる者は、
権威主義に陥った、ただの「科学教」の信者である。
占星術天文学に与えた多大なる功績を知らないのだろうか?
錬金術が化学をどれだけ発展させたのか知らないのだろうか?
検証する作業を厭うていては、科学的な態度とは言えないのだ。



空に浮かぶ天体が、僕らの精神に影響を与えているということは間違いない。
その一番は当然、太陽だ。
僕らは日の出と同時に起きて、日の入りと同時に眠る(時々ね)。
公転周期である365.2422日を1年と定め、年中行事を繰り返して生活している。
太陽が出ていれば気分はスッキリするし、曇っていれば憂鬱で仕方が無い。


月だって同じように、僕らの生活や精神に少なからず影響を与える。
満月の夜には、人は狂い、殺人事件が多発すると言われる。
潮の満ち干を起こしているのは月の重力なのだし、体重の70パーセントが水分である人体に影響を及ぼさない訳が無いのだ。


しかし、天王星は、太陽から59億kmも離れている(楕円軌道なので平均の距離だが)。
肉眼では見えない (しかも、もはや惑星ですらない) 天王星が、僕ら地球の住民に影響を与えるなどと言うのは荒唐無稽だと言わざるを得ない。



しかし、それでもそんなことは関係なく、占いは当たるのだ。



鏡リュウジは、自ら占星術研究家であり、占い師で生計を立てながら、非常に科学的な態度で、占星術に対して懐疑的な態度を貫いている。
この真摯で公正な態度は、科学の信望者にも感動を覚えさせるだろう。


何の根拠も無さそうに見える占星術が、それでも当たるのは、
天体と人間の間にシンクロニシティ(共時性)が働くからではないか、と鏡リュウジは推察する。


シンクロニシティとは、心理学者ユングの造語である。
この言葉は「ユーザリティ(因果論)」に対する概念として作られた。
今までは、「全ての現象は、因果論で説明できる」、つまり「あらゆる出来事には原因があり、それを解き明かすことが出来る」と信じられてきた。
しかし、科学者であるハイゼンベルグ自らが不確定性原理を主張するに及び、科学の綻びが目に見えて大きくなっている。


科学は時に自らの限界を超えていくような振る舞いを見せる。
それは「コペルニクス的転回」や「パラダイム・シフト」と呼ばれる。
昨日までの常識を覆してしまうような、新しい視座を発見することである。


因果論が限界に達している今、何がそのような転回の扉を開くだろう。
漢方薬鍼灸などの代替医学だろうか。
ドラッグや宗教、瞑想による悟りだろうか。
あるいは、占星術や算明学などの占いかもしれない。
科学のすぐ外側に位置するそれらの似非科学疑似科学が、不気味な真実性を持って我らに迫っているのだ。



神の見えざる手が2つの目覚まし時計をセットする。
2つの目覚まし時計の間には何の繋がりも因果も無いが、その目覚まし時計は毎日同じ時刻に鳴り続ける。
天体と、人間には同じことが起こるのはそういう訳だ。


占いは、科学をあざ笑うかのように当たり続ける。
僕ら科学の信望者は、目覚まし時計が鳴る度に、それが科学に対する警鐘であることを知るのだ。