それじゃあお元気で、さようなら。
阿部和重「グランド・フィナーレ」2005
- 作者: 阿部和重
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/07/14
- メディア: 文庫
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「ああ、ほっといていい。こいつが泣いてるのはな、自業自得なんだ。
一昨日こいつの娘の誕生日だったんだよ。でもこいつ、娘と会えなかったんだ。
つうかな、会えねえんだよこいつ、娘と。会っちゃいけないの。
知ってるだろ、こいつが離婚したこと。百パーセントこいつが悪いんだがな。
俺さ、こいつの別れた奥さんと昔から友達なのよ。だから事情はよく知ってんの。
一昨日も、こいつに頼まれて、娘の誕生日プレゼント、俺が持ってってやったわけ。
こいつからってのは内緒で。しょうがないよんだよ。そう決められてるから。
別れた奥さんが絶対に許しちゃくれないから。でもな、公平に見て、やむを得ないのよ。
俺だってな、こいつを娘と会わしちゃいかんと思ってるもん。
だってさ、こいつあれなんだぜ。自分の娘の全裸写真、デジカメで何枚も撮ってやがったんだぜ。
何枚もっつうか、何百枚もだなあれは。
しかもさ、てめえんとこの娘だけじゃなくな、他所んちのこの裸も撮ってやがったんだよ。何人も。
まあ、こいつにそういう趣味があるってゆうのは、俺も何となく勘づいてはいたけどさ、
でもな、それだけじゃないんだこれが。裏で商売してやがったんだよ。」
ゲイにレズビアン、覗き魔、露出狂、サディスト、マゾヒスト、下着フェチ、近親相姦。
色情症にエロトマニア、女装癖、スカトロジスト、オナニスト、獣姦、畸形愛好・・・。
世に多くの性倒錯者はいれど、ロリコンほど暗い道を歩いている者も居ないだろう。
かつては犯罪者、良くても変態として扱われたゲイ/レズビアンでさえ、
現在では多くの米国の州や、その他の国で、同性結婚が認められつつある。
(そういう意味では日本はサイアクの後進国だ)
時間は掛かるかもしれないが、職場や学校でも、彼らへの差別・偏見が完全に消える日が来ると僕は信じている。
その一方、ロリコンの歩む道はいつまでも明るく照らされることはない。
だって彼らの欲望を正当化し、少年少女への性的暴力を許してしまったら、
当然のことながら、多くの子供たちが危険に曝されることになってしまう。
親たちも安心して子育てを行うことが出来なくなる。
彼等をゲイ/レズビアンと同等に解放するなんて出来ない相談なのだ。
どうしたって彼等の行動は規制せざるを得ない。
ただし規制すべきなのは、彼等の少年少女達に対する暴力的な行為のみに限るべきだ。
小児性愛者向けのアニメやゲームを制限するなど、言語道断だ。
僕は特に萌えアニメや美少女ゲームのファンはない。
しかし自分の興味の無いジャンルだからと言って、何も言わずに規制を受け入れていたら、いつか必ずしっぺ返しを食らう。
気付かぬ間に少しずつ自由が奪われていくことになるかもしれない。
表現の自由は、身体の自由よりも重要なのだ。
※もちろん「規制されてるからこそ、興奮するんじゃねぇか」と言うツワモノも居るだろう。
そういう想像力の豊かな変態サンは、規制されてなくったって高いレベルまで上っていけるから放っておいてもよろしい。
それからもちろん、彼らの内面にある、倒錯的な欲望についても、規制すべきではないし、規制することは不可能だろう。
あぁ、それにしても。
この恋愛資本主義のさなか、汚れきった大人の女性たちに見切りをつけ、
純粋無垢な幼女をその恋愛対象とする、というのはごく自然な成り行きだと思う。
(もちろん幼女が純粋無垢だというのは中年男性の妄想に過ぎないのだが)
その嗜好は犯罪ではない。
恋するあの子と想いを遂げたいと欲することも自然なことだ。
しかし、それを実現させると罰せられる。何と哀しい話だろう。
そしてこの小説の主人公・沢見は、矩を越えてそれを実行してしまう。
「沢見さんみたいな人って自分のことしか頭にないから、そんなふうには考えたこともなかったでしょ。
美江ちゃんはね、失望したから避けるようになったんじゃなくて、沢見さんのことが怖かったから逃げ出したのよきっと。
ずっと逃げたかったんじゃない。でも怖いから逆らえなくて、仕方なくセックスまでしちゃってたんだと思う。
沢見さんは、自分に都合がいいふうに解釈してるだけ。いろんなことをね。多分みんな凄く傷ついてるよ。
美江ちゃんも、美江ちゃんのお母さんも、沢見さんの別れた奥さんも、ちーちゃんも。
沢見さんは、田舎に帰って、こっちにいる人たちの顔を見ないで暮らしてけば何もかも忘れ去れるんだろうけど、
沢見さんに傷つけられた人たちは、どうなんだろう、ね。
あたしの友だちみたいに、何年経ってもいやな記憶が薄れなくて、耐えられなくなって自殺とかしなきゃいいけど。
そうならないことをあたしは祈ってる。友だちが目の前で死んで、あたしも辛い思いをしたから。
それじゃあお元気で、さようなら」