嘘ばっかりだ。もうウンザリだ。
水野敬也「雨の日も、晴れ男」2008
- 作者: 水野敬也
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/06/10
- メディア: 文庫
- 購入: 9人 クリック: 53回
- この商品を含むブログ (52件) を見る
幼い小さな二人の神が、平凡なサラリーマン、アレックスに対していたずらをする。
「運命の手帳」に、以下のように書き込む。
AM9:00アレックスの目覚まし時計が止まる
AM10:00アレックスは会社の上司にいじわるされる
AM11:00アレックスは仕事で大失敗する
AM12:00アレックスは円形脱毛症になる
PM2:00アレックスは見知らぬ男に殴られる
PM4:00アレックスは詐欺にあう
PM7:00アレックスは・・・
アレックスの身には突然次々と不幸が見舞われることになるが、
それでも彼は常に他人を楽しませ、前向きに生きることを忘れない。
例え小さな神様が悪戯をしなかったとしても、僕らの身には結構多くの不運が見舞う。
あらゆる場面で失敗を犯し、選択を誤る。
学校選びを誤り、恋人選びを誤り、職業選びを誤り、結婚相手選びを誤る。
しかし、僕らが払うべき努力は「誤らないようにする」ことではない。
「選択を誤っても、それなりに楽しく幸せに生きていく」ことだ。
失敗をしないように常に緊張を強いられるのと、
失敗してもそれを笑い飛ばしながら生きていくのと、
どちらが幸せなのかは言うまでも無い。
学校の教師は「君たちには君たちにピッタリの進学先があるはずだ」と言う。
リクルートは「自分の適性にピッタリ合ったたった一つの仕事を選べ」と言う。
結婚相談所は「あなたの理想の結婚相手を探す手伝いをします」と言う。
言うまでも無いことだが、そんなものはどこにも存在しない。
自分にピッタリの学校なんかどこにも無い。
天職なんか無い。理想の結婚相手なんかどこにもいやしない。
人生の達人は、どんな学校でも何かを吸収し、
どんな仕事でもいくらかのやりがいを見つけ出し、
どんな配偶者とでも結構楽しく暮らせるような人のことだ。
ちょうど、燃え上がる自宅をクリスマスツリーに見立てて、
ジングルベルを歌いだすアレックスのように。
「今の自分は仮の姿、本当の自分は他に居る」と若者は言う。
「本当の自分を探しましょう!」とテレビは言う。
「旅は本来の自分に出会える!」と旅行代理店は言う。
嘘ばっかりだ。もうウンザリだ。
そんなものは存在しない。今手にしているものが、自分の全てだ。
切られたカードで勝負しろ。