孤独な旅人 その4。

ルイス・キャロル 矢川澄子金子國義絵「不思議の国のアリス」1865

不思議の国のアリス (新潮文庫)

不思議の国のアリス (新潮文庫)

「アリスはどうして、あんなに必死に白ウサギを追い掛け回したのか?」
その質問に答えるために、僕は原作を手に取り、ワンダーランドを旅した。
そこにはディズニー映画の楽しげな狂騒は無く、不安で恐怖に満ちた独り旅があった。


アリスはワンダーランドでは数多のキャラクターに出会う。
彼らは虫であったり、獣であったりするが、まともなのはアリスを除いて一人も居ない。


アリスの恐怖は、彼らが異型の存在であることに起因するのではない。
彼らが口を利き、アリスに語り掛けてくることに拠るのでもない。
あれだけ饒舌に語り掛けられ、会話を積み重ねても、
全くコミュニケーションが成り立たないということに起因するのだ。


アリスは旅の間、常に強い緊張を強いられ、泣くこともできない。
いや、一度だけ泣いてみたのだが、文字通りその涙に溺れてしまったので、
それ以上泣くことができなくなったのだ。
嗚呼!可哀相なアリス。


人間のとっての最大の恐怖は、強度のコミュニケーションではない。
コミュニケーションの不在だ。
「物理的な暴力」よりも、「何を言っているのか分からない隣人」の方が怖い。
それ故に人はゴーストを恐れ、山人を怖れ、死を畏れるのだ。


当然その恐怖とは、独力で立ち向かわなくてはならない。
芭蕉も、ドン・キホーテも、浜田庄吉も、おだんごぱんも、アリスも、
そうやって恐怖と共に旅をしたのだ。