孤独な旅人 その2。

丸谷才一「笹まくら」1966

笹まくら (新潮文庫)

笹まくら (新潮文庫)

浜田庄吉は、太平洋戦争の最後の五年間を、徴兵忌避者として日本全国を旅しながら逃げ回る。
杉浦という変名を使い、ラジオや時計の修理工として、あるいは砂絵師として、
憲兵の影に脅えながら隠密の旅を続ける。


「笹まくら」とは、旅での不安な眠りのこと。
かさかさする音が不安をかき立てる、やりきれない恐怖と戦慄に満ちた旅寝。


浜田は旅先で知り合った家出娘の実家に転がり込み、その二階で隠れるように暮らし、
そこで敗戦を迎えるまで、国家体制を相手に孤独な闘いを演じたのだ。


いや、戦争が終わっても、彼の闘いは終わらない。
終戦後も、懲役から逃げ出した「卑怯者」として蔑まれ、憎まれ、
不条理な差別を受けながら、毎日を不安に過ごし続ける。