制限の無いところに自由は無い。

筒井康隆残像に口紅を」1989

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)

章が進むごとに一音ずつ音が消えていく、という超実験的長編小説。
「ぱ」が消えると、「パン」も、「パリ」も、「オールドパー」も消える。
最終的には「ん」だけになり、小説が終わる。


ん。


その作品の存在を聞いたとき、ビックリはしたが、
「それが文学的に名作なはずは無い」と思っていた。
使えない音が存在する状態で、制限の無い小説に適うわけが無い、と。


しかしそれは大きな間違いだった。


ノックスの十戒」もそうだが、小説に制限を掛けることは、
その小説を面白くする方向へ働くのだ。


実際、この作品の中で筒井は、挑戦したことの無い自伝語りを始める。
使用できる音が制限されてはじめて表現できる、という事柄が存在するのだ。