2ちゃんねるの名無しさんに芥川賞を。

高橋源一郎「ジョン・レノン対火星人」1985

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

偉大なるポルノグラフィー作家である「わたし」は、現在も日々生産されている小説は全て、「十九世紀市民小説」であると断言する。
「十九世紀市民小説」の特徴は以下の通り。


(1)十九世紀市民小説は、その文躰・主題・方法・コンセプトによって分類することが可能である
(2)十九世紀市民小説には作者が必要である
(3)十九世紀市民小説の言語機能は不十分であり、そのために実在しないものと実在するものの混淆がしょっちゅう起こる


これはつまり、「分類不能で、作者不要で、言語を超えた」小説を作りたいという決意表明だ。
それは、2ちゃんねるでの書き込みのようなものではないか。
名無しさんが書いたレスが、際限無くコピペされ、様々なパロディを生み出しながら再生産されては消えていく。
今期の芥川賞は受賞者無しだそうだが、2ちゃんねるの名無しさんにそれが送られる日も近い。


それは既に小説ではないかもしれない。
仕方ない。
芸術というのはいつも、自己否定をしながら、自らの限界を超えていかなくてはならないという使命を追っているのだ。