革命は自分自身と、愛する者と、弱い者の為に。

中島らもお父さんのバックドロップ」1989

お父さんのバックドロップ (集英社文庫)

お父さんのバックドロップ (集英社文庫)

ロートル(年寄り)の悪役プロレスラーである「お父さん」が、最強の黒人空手家、通称"熊殺しのカーマン"に挑戦する。
リングの上で「お父さん」はマイクパフォーマンスをする。

おれはこのリングにたつのが大すきだった。二十何年間というもの、あしたはもうリングに立てないんじゃないかと、そればっかり考えてきた。
それがこわくて、毎日めちゃくちゃに体をきたえてきた。でもな、もういいんだ。
俺がここで勝っても負けても、あんたたちはすぐに、俺のことなんかわすれるだろう。
むかし、空手家と試合してボロボロになった、なんとかというばかなレスラーがいた、
くらいの話で、それもすぐにわすれてしまう。それもいい。
きょう、俺がここで戦うのは、たった三人の人間のためだ。
その三人さえおれのことをわすれずにいてくれたら、それでいい。
そのために戦う。それはおれ自身と、おれのカアちゃんと、おれのムスコだ。

革命はいつだって、自分自身と、愛する者と、弱い者の為に為されなければならない。