名作にキスを。

ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟」1880

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)

気が遠くなる程の大長編。
上中下巻合計1500ページ、殆ど改行も無く細かい字がビッシリと並んでる。
「文学」という悪の軍団と闘うロールプレイングゲームがあったとしたら、
「カラ兄」は間違いなく大ボスクラスだろう。
ラスボスは、デカルトか、ヘーゲルか、マルクスか・・・。


この大長編が著されてから、既に百年以上の年月が経過した。
しかし依然として世界的名著して燦然と輝き、今も研究し続けられ、世界中で読み継がれている。
「東大教師が新入生にすすめる100冊」でも、堂々の第1位に輝いていた。
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2007/04/100_d0c8.html


「カラ兄」が、名著と言われる所以は何か?
「欲望」が書かれているから?
「宗教と人の関係」を示しているから?
「家族のあり方」を模索しているから?
「罪の意識」と「人間の成長」がテーマになっているから?
―――否。
「面白いから」だ。
時に圧倒されながら、時に大笑いしながら、僕はこの本を読み通した。
(特にリーズのツンデレっぷりに笑った)


誉れ高い「大審問官」の章は、早々と上巻に登場する。
カラ兄次男のイワン・フョードロウィチ・カラマーゾフは、
三男のアレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフに対して、自作の戯曲を話して聞かせる。


舞台は16世紀。最もカトリックの異端尋問が厳しかった時代。
そこにイエス・キリストその人がひょっこりと姿を現す。
ただしその人、イエスは、一言も言葉を発せず、
ただ、ローマ教会の枢機卿である「大審問官」の非難に耳を傾けている。


大審問官は、イエスを糾弾する。
なぜ、今更戻ってきたのか、と。
お前はもう、昔言ったことに一言も付け加える権利は無いのだ、と。


人間は、良心の自由などという重荷に堪えられる存在ではない。
人々が常に求めているのは、自由と引き換えにパンを手に入れること、
そして、パンを与えてくれる相手に平伏すことなのだ。
だから協会は、彼らを自由の重荷から解放してやり、パンを与えた。
わしはお前のできなかったことを、代わりに行った。
悪魔の力を借り、王国は築かれつつある。
今更、何をしに戻ってきたのだ!


エスは、その弾劾に対し、何も反駁しない。
その代わりに、老審問官の唇にキスをし、立ち去るのだ。


その話を聞いたアリョーシャ(アレクセイ)は、無言で兄イワンの唇にキスをする。


僕もそうしよう。
何も言わずに、この名作にキスをし、ページを閉じることにしよう。