最も流動しやすいが故に、僕らを閉じ込めておくもの。

安倍公房「砂の女」1962

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

男は砂の穴の底の一軒家に閉じ込められる。
何度も脱走を試みるが、砂がその優れた流動性により彼を閉じ込める。
砂に囲まれた生活を送りながら、何度も元居た世界を夢想する。
しかし男は、元の生活に本当の自由なんて無かったということに気付く。
やがて男は縄梯子を掛けても出てこないようになってしまう。
砂の中に閉じ込められたまま、男は本当の自由を手に入れる。


「砂」というのは、「土」と「粘土」との中間の相だ。
直径1/8mmを中心にガウス誤差曲線を描く。
その大きさの粒子が、風や水流によって最も移動させられやすいのだ。
最も流動しやすいが故に、僕らを閉じ込めておくもの―――それが「砂」だ。
僕らは常に「砂」の中に居て、「ここから出られれば自由になれる」と誤解している。