人の善意に甘えるのも優しさ。

■人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女
加藤行宏監督/2009/日本

人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女 [DVD]

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長いタイトルだなー。
主演のマホちゃん曰く、「人の善意」とか「骨の髄」とか略すらしい。
「人の髄」とか「骨の善意」とか間違った略し方もされているらしい。
映画紹介はこうだ。

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深谷オールロケ作品。売れない舞台女優、山田真歩は友人の彼氏が作った映像作品が動画サイトで10万アクセスを記録していることを知り、自らが主演するネットドラマを作ることを企画する。真歩は芝居仲間の牧野とともに、田舎町の壊瀬で撮影を行う。現地の住民たちの協力を得て、撮影が順調に進むかに見えたのだが、真歩は彼らの善意を次々と仇で返していく。後に牧野は真歩が周りから「人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女」と呼ばれていることを知る…
2008年に実際に起こった出来事を基にした不条理コメディー。

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映画を通しての感想は・・・そうだな、まず、牧野さん怖いってこと。
最初は「山田真歩」に好意を寄せて協力的だった彼が、
ある時にそのワガママに堪えられなくなり、キレて大暴れする。
普段優しい人がキレる時って怖いよね。


それから、「山田真歩」は、女優の卵でありながら、公務員の男性と結婚している。
彼は「優しくて、困っている人が居るとほっておけない人」という個性を持っており、
妻の「山田真歩」に対しても、深い慈しみを持って接している。
山田真歩」は、その優しさに付け込む悪妻という訳だ。
夫はまた、ゲームばかりやっているニートの友達を、家で飼っている。
誰もまともに家事をしない為に家はゴミ屋敷になっているが、
夫婦とその友達の3人はそのゴミ屋敷で共同生活を送っているのだ。
夫はゲイではないが、その友達を心から愛し、甘やかしている。
いつまで居てもいいんだよ、と言って一緒にゲームをやったり、お小遣いをあげたりするのだ。
僕には、「山田真歩」がネットドラマを作るという本筋よりも、
この3人の奇妙な共同生活の方に妙なリアルを感じた。



映画を観た後、僕はうまく話すことが出来ないほどのショックを受けてしまった。


やはりこの映画で大きなインパクトを持っているのは、まずはそのタイトルだろう。
「人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女」。これは主人公の「山田真歩」を指している。
しかし僕には、「山田真歩」が恐ろしいモンスター女には思えなかったのだ。
それは、僕も「山田真歩」の類稀な「外面の良さ」に騙されているからだろうか?
そうかもしれない。
しかし、人の善意に素直に甘えるというのも一種の優しさだと僕は思うのだ。
僕もそうやって、人の善意に甘えたままで今まで生きてきた。
僕にはどうしても、「山田真歩」が悪人とは思えなかった。
人の善意に、優しさに触れることでしか、自らの存在を確認出来ない、
弱い存在なのではないかと思ったのだ。


僕はむしろ、「山田真歩」の周りの人たちの心を恐ろしく思った。
自らの欲望が受け入れられないと知るや手のひらを返して凶暴化する牧野さん。
カメラを通じて「金を返せ」と口を尖らせる同級生や、劇団の座長。
あるいは「真歩は恩を仇で返すような恐ろしい子に育ってしまった」と咽び泣く母親。
僕にとっては彼らの方がグロテスクだ。


(同級生は少しリアルじゃないと思った。
牧野さんは「特典映像を撮るので、山田真歩さんのことを話して下さい」と言ったのだ。
不特定多数の人が見るかもしれない映像に、「金を返せ」とか「芝居がつまらない」だとかって
言える人って居るのだろうか?
僕が台本を書くなら、カメラが回っている時には褒めちぎり、
止めた途端に悪口を始めるようにするだろうな)


僕が言葉を失ってしまったのは、きっとのその悪意を浴びたからだろう。